日本は地震、台風、豪雨など、多様な自然災害のリスクが高い国です。
大規模災害発生時、公的な支援(公助)がすぐに届かない可能性があります。特に発災直後は、電気・ガス・水道・通信などのライフラインが停止し、物流も滞ることが予想されます。
このような状況で命と安全を守るためには、一人ひとりが日頃から備え、自力で困難を乗り切る「自助」の準備が不可欠です。公的機関は、災害発生後の数日間(最低3日、大規模災害時は1週間程度)は公的支援が十分に行き届かない可能性を想定し、自助の備えを強く推奨しています。
本稿では、内閣府、消防庁、首相官邸、東京都防災ホームページなど、信頼できる日本政府や公的機関が発信する情報を基に、「本当に必要な防災グッズ」を優先度順にまとめました。
各品目の必要性や優先度の理由を解説し、今日からできる備えの一助となることを目指します。
政府推奨の防災グッズをチェック
以下の表は、内閣府(首相官邸含む)、消防庁、東京都が共通して推奨する頻度の高いコア・アイテムです。
水・食料・医薬品、明かり・情報源・保護具、基本的な衛生用品・貴重品は、どの機関も共通して重要視しています。
カテゴリ | 品目 | 首相官邸 | 消防庁 | 東京都 | 主な必要性・備考 |
---|---|---|---|---|---|
生命維持 | 飲料水 | ✓ | ✓ | ✓ | 脱水予防、調理、衛生。最低3日分(1人1日3L)。 |
非常食(アルファ米、缶詰等) | ✓ | ✓ | ✓ | エネルギー補給。調理不要・長期保存可能なもの。最低3日分。 | |
常備薬・救急用品 | ✓ | ✓ | ✓ | 持病対応、応急処置。お薬手帳も。 | |
安全・避難 | 懐中電灯 | ✓ | ✓ | ✓ | 停電時の照明、安全確保。予備電池・手回し式推奨。 |
携帯ラジオ | ✓ | ✓ | ✓ | 災害情報の入手。予備電池・手回し式推奨。 | |
ヘルメット・防災ずきん | ✓ | ✓ | ✓ | 頭部保護。 | |
手袋(軍手) | ✓ | ✓ | ✓ | 瓦礫撤去、作業時の手の保護。 | |
情報・衛生 | 携帯電話・充電器/バッテリー | ✓ | ✓ | ✓ | 連絡、情報収集。電源確保が重要。 |
簡易トイレ | ✓ | ✓ | ✓ | 断水時の衛生確保。 | |
マスク | ✓ | ✓ | ✓ | 粉塵、防寒、感染症対策。 | |
ウェットティッシュ | ✓ | ✓ | ✓ | 水不足時の身体清拭、衛生維持。 | |
貴重品 | 現金(小銭含む) | ✓ | ✓ | ✓ | 公衆電話、自販機、買い物(電子決済不可時)。 |
重要書類コピー | ✓ | ✓ | ✓ | 身分証明、手続き。健康保険証、免許証など。 |
✓: 各機関の提供資料(本稿で参照した範囲内)で推奨を確認。
(参考サイト)
本当に必要な防災グッズリスト【優先度順】
災害時に必要なものは多岐にわたりますが、すべてを一度に準備するのは困難です。そこで、公的機関の情報を参考にして、特に重要度の高いものから優先順位をつけてリスト化しました。
優先度分類
レベル1:生命維持(最優先) – これがなければ生命の危機に直結する可能性が高いもの。
レベル2:安全確保と避難支援(重要) – 避難や安全な生活を送る上で不可欠なもの。
レベル3:情報・衛生・生活維持(必要) – 避難生活の質を保ち、健康を維持するために必要なもの。
レベル1:生命維持(最優先)
災害発生後、生き延びるために最低限必要な、最優先で確保すべきアイテムです。
飲料水 (Drinking Water)
人間の生命維持に不可欠。脱水症状は短時間で深刻な事態を招きます。災害時には水道管の破損などによる断水が広範囲で発生する可能性が高く 、給水車がすぐに来るとは限りません。調理や最低限の衛生維持にも水は必要です。
- 必要量: 最低でも1人1日3リットルを目安に、3日分(計9リットル)の備蓄が推奨されています 。大規模災害に備え、可能であれば1週間分の備蓄が望ましいとされています 。
- 種類: そのまま飲用できるペットボトル入りの水が基本です 。長期保存が可能な水(長期保存水)も選択肢となります 。また、飲用とは別に、トイレを流したりするための生活用水(お風呂の残り湯の活用、ポリタンクへの貯水など)も確保しておくと役立ちます 。浄水器(ろ水機)も一部で言及されていますが 、個人備蓄の基本は安全な飲料水の確保です。
食料 (Food)
生命活動を維持するためのエネルギー源。ライフラインの停止 や店舗の閉鎖、避難生活により、通常の食料調達が困難になります。特に、調理や水をほとんど必要としないものが重宝します 。
- 必要量: 最低3日分の備蓄が基本です 。在宅避難などを考慮し、1週間分程度の備蓄が推奨されています 。
- 種類: 長期保存が可能で、調理不要または最小限の調理で食べられるものが中心です。具体的には、アルファ米(ご飯)、缶詰 、ビスケット・クラッカー類 、乾パン 、レトルト食品 などが挙げられます。チョコレートや飴、栄養補助食品など、手軽にエネルギー補給できるもの も有効です。栄養バランスも考慮することが望ましいとされています 。
医薬品・衛生用品の一部 (Medications & Critical Hygiene)
持病の悪化や怪我、感染症のリスクに対応するため。災害時には医療機関の受診や薬の入手が困難になる可能性が高いです 。また、避難所などでの集団生活や不衛生な環境下では、感染症の予防が極めて重要になります。
- 常備薬 (Personal Medications): 持病のある方にとっては、これが生命線となります。普段服用している薬は、最低でも数日分、可能であれば1週間分以上を用意しましょう。処方箋のコピーやお薬手帳 も必ず携帯・備蓄し、マイナンバーカードや健康保険証 と合わせて、必要な医療情報が伝わるようにしておくことが重要です。
- 救急用品 (First Aid Kit): 怪我の手当てに必要な基本的なアイテム。絆創膏、ガーゼ、包帯、消毒液、テープ、解熱鎮痛剤、胃腸薬、風邪薬など 。
- マスク (Masks): 粉塵、防寒、感染症予防(飛沫感染、接触感染)に必須です 。
レベル2:安全確保と避難支援(重要)
安全な避難行動や、避難後の生活基盤を支えるための重要なアイテムです。
明かり (Lighting)
停電 は大規模災害時に広範囲で発生する可能性が高い事象です。暗闇での移動は、散乱したガラス片や障害物による怪我のリスクを高めます。明かりは安全確保、救助信号、そして心理的な安心感のためにも不可欠です。
- 品目: 懐中電灯は必須です 。電池不要の手回し充電式(ダイナモ式)が推奨されています 。広範囲を照らすランタン も役立ちます。ろうそく も挙げられますが、火災のリスクがあるため、転倒しにくいものを選ぶ など、使用には十分な注意が必要です。予備の電池 も忘れずに用意しましょう。両手が使えるヘッドランプやネックライト も便利です。
- 関連情報源:
- 情報収集手段 (Information Gathering)
- 必要性: 災害の状況、避難指示、支援情報などを正確に把握するために不可欠です。停電や通信網の輻輳・途絶により、普段利用しているスマートフォンやインターネットが使えなくなる可能性があります 。
- 品目: 携帯ラジオは、電力消費が少なく、災害情報を得るための重要な手段です 。手回し充電式が推奨されます 。予備の電池も必要です 。スマートフォンは重要な情報ツールですが 、停電に備え、モバイルバッテリーや充電器 を必ず用意しましょう。複数の充電手段(電池式、手回し式、ソーラー式など)を準備することも有効です 。
- 関連情報源:
安全装備 (Safety Gear)
地震や風水害による落下物、飛散物、倒壊した建物や散乱した瓦礫などから身体を守るために必要です。特に頭部、手、足元の保護が重要です。
- 品目: ヘルメットや防災ずきん で頭部を保護します。瓦礫の撤去や危険物の除去、避難時の手すり代わりなど、様々な場面で手を保護するために、厚手の軍手や革手袋 が必要です。足元は、ガラス片や釘などが散乱している可能性があるため、底の厚い運動靴や安全靴 が必須です。就寝中でもすぐに履けるよう、枕元にスリッパや靴を置いておくことも推奨されています (ただし、屋外の瓦礫の上を歩くには底の薄いスリッパは不向きであるとの指摘もあります )。
救助・合図用品 (Rescue/Signaling Tools)
瓦礫の下敷きになった場合や、はぐれてしまった場合に、自分の居場所を知らせ、救助を求めるために重要です。簡単な工具は、閉じ込めからの脱出や障害物の除去に役立つ場合があります。
- 品目: ホイッスル(笛)は、少ない息でも大きな音が出せるため、救助を求める際に有効です 。多機能ナイフ(万能ナイフ) も様々な用途に役立ちます。ロープ も挙げられますが、一般の方が避難などに使用するのは困難な場合もあるため、優先度は状況によります 。
レベル3:情報・衛生・生活維持(必要)
避難生活を少しでも快適にし、健康を維持するために必要なアイテムです。生命維持に次ぐ重要性を持ちます。
簡易トイレ・衛生用品 (Portable Toilet & Hygiene Supplies)
断水により水洗トイレが使用できなくなることは頻繁に起こります。また、避難所のトイレは数が限られ、衛生状態が悪化しがちです。排泄を我慢することは健康に悪影響を及ぼし、不衛生な環境は感染症のリスクを高めます。個人の衛生を保つことは、健康維持だけでなく、精神的な安定にも繋がります。
- 品目: 携帯トイレや簡易トイレは必須です。十分な数を備蓄しましょう(目安:1人1日5~6回×7日分 )。トイレットペーパーも多めに必要です(目安:家族4人で8ロール/週 )。水が使えない状況で体を清潔に保つために、ウェットティッシュやからだ拭きシート は非常に役立ちます。手指消毒用のアルコール や石けん で感染症を予防します。ティッシュペーパー も必要ですが、水に流せないため、トイレットペーパーの方が汎用性が高い場合もあります 。生理用品 は女性にとって不可欠です。ゴミ袋(ポリ袋) は、ゴミの処理だけでなく、様々な用途に使えます。歯ブラシや歯磨き粉(または歯磨きシート) も口腔衛生のために準備しましょう。
衣類・保温具 (Clothing & Warmth)
体温の維持は生命維持に直結します。特に、夜間や冬場、雨天時には低体温症のリスクが高まります。濡れたり汚れたりした場合に着替えられるよう、予備の衣類も必要です。
- 品目: 下着を含む着替え一式 、雨具(レインウェア) は基本です。毛布や寝袋 は保温に有効ですが、非常持ち出し袋に入れるにはかさばる場合があります 。軽量でコンパクトなアルミ製の保温シート(エマージェンシーシート/ブランケット) が持ち運びには適しています。使い捨てカイロは手軽な暖房手段です。タオル は体を拭くだけでなく、防寒や枕代わりにもなります。靴下も忘れずに。
貴重品・連絡手段 (Valuables & Communication)
身分証明、支援の受給、財産の保全、安否確認や連絡のために不可欠です。災害時にはATMが使えなかったり、電子決済が不能になったりする可能性があるため、現金(特に公衆電話用の硬貨)も重要です。
- 品目: 現金(小銭、特に10円玉を含む)。身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、健康保険証など)、預金通帳、印鑑、保険証券などの重要書類、またはそのコピー 。家族や知人の連絡先を記したメモ 。筆記用具とノート 。印鑑 。これらの重要書類は、普段からコピーを取って非常持ち出し袋に入れておく、リスト化しておく などの対策が推奨されます。
その他 (Other Useful Items)
上記以外にも、避難生活の様々な場面で役立つアイテムがあります。
- 品目: マッチやライター 、缶切り・栓抜き 、食品用ラップ (食器に敷けば水洗い不要になる)、アルミホイル 、布製ガムテープ 、大小のポリ袋・ビニール袋 、手ぬぐい 、携帯カトラリー 、紙皿・紙コップ など。